製造業におけるIoTの重要性とは?活用事例・低コストでの導入方法をご紹介
公開日:2024.12.26 更新日:2024.12.26
製造業では少子高齢化による人手不足が深刻な課題です。そんな中、随分前からソリューションの一つとして注目されているのがIoT(モノのインターネット)の活用でしょう。
この記事では、製造業におけるIoT活用が重要な理由について説明した上で、製造業の活用事例を取り上げ、IoT化によりどのように低コストで人手不足が解消できるのかを解説します。
製造業におけるIoT活用の重要性とは?
IoT(Internet of Things)とは、「モノのインターネット」と訳されることもある情報技術のことです。家電やウェアラブル端末、産業機械、建物など物理空間に存在する「モノ」とインターネットをつなぐことで、データを蓄積したり、相互に制御したりすることが可能になります。
IoTという言葉が最初に使われたのは、1999年にマサチューセッツ工科大学のAuto-IDラボの設立に関わったケビン・アシュトン氏によるといわれていますが、日本でIoTが一般的に認識され、実用化されはじめたのは2010年頃でしょう。スマートフォンの爆発的普及に伴い、データ取得に必要なセンサの単価も下がり、さまざまなモノに搭載することでIoTはわたしたちの生活のさまざまな場面で活用されるようになりました。
IoTはわたしたちの生活を便利にするだけでなく、製造業においても極めて重要な役割を果たすことが期待されています。
世界的に進むIoT化の取り組み、その中で特筆すべき例として、2011年にドイツが国家戦略として掲げた「Industry4.0(第4次産業革命)」があります。ドイツは伝統的にものづくりが盛んな国ですが、コストの面ではアジアやアメリカの製品に後塵を拝していました。そうした危機感がドイツをIndstry4.0へ舵を切らせたといわれています。ドイツはこの国家戦略によって、自国の強みを活かしながら国内の製造業を他国よりも高いレベルへ押し上げようとしたのです。
そうした世界的トレンドに呼応するかたちで、2017年、経済産業省は「Connected Industries」を打ち出します。経済産業省によると、Connected Industriesは、「人と機械・システムが対立するのではなく、共同する新しいデジタル社会の実現」「協力と協働を通じた課題解決」「人間中心の考え方を貫き、デジタル技術の進展に即した人材育成の積極推進」という3つの柱から構成されています。そして、経済産業省は、5つの重点取り組み分野として「自動走行・モビリティサービス」「ものづくり・ロボティクス」「バイオ・素材」「プラント・インフラ保安」「スマート・ライフ」を挙げています。
では、IoTを活用し、製造業においてIndustry4.0やConnected Industriesの実現を目指すべきなのはなぜでしょうか? 製造業におけるIoT活用の重要性は、大きく分けて以下の3つの理由があると思われます。
人手不足の改善
経済産業省・厚生労働省・文部科学省が共同で取りまとめた「2022年版ものづくり白書」によれば、製造業における人材は過去20年で約157万人減少しています。また、総務省の「情報通信白書(令和4年版)」によると、少子高齢化が進む中、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに2050年までに29.2%減少することが予測されています。人手不足はどの業界でも深刻ですが、それに加えて製造業に対する「3K(きつい、汚い、危険)」というイメージはいまだに払拭できていないのが現状です。
IoTを活用することで「スマートファクトリー」が実現できれば、人手不足の解消につながるだけでなく、これまで多くの人が製造業に抱いてきたイメージも変化させることができるはずです。ここでいう、スマートファクトリーとは、単にロボットなどの機材を導入することで業務効率化を図るだけでなく、IoTを活用しデータを収集・活用することで製造業の業務プロセス全体を見直し、最適化することを意味しています
技能継承の実現
技能承継も製造業の課題の一つです。どちらかというと、これまで日本の製造業における技術は属人的で、共有が難しいとされてきました。技術を承継するためには長い時間をかけて「見て学ぶ」ことが求められてきたのです。しかしスピード感が重要視される今、IoTを活用すれば、これまでの属人的な技術をデータで「見える化」することで全従業員と共有が可能になり、技術継承もより容易になるでしょう。
製造業の利益拡大
IoTを活用すれば、職人の技能や創造性をデータ化することが可能です。それを生産設備につなぐことで多品種・短納期加工を実現し、新規顧客獲得や利益拡大につなげることができるのです。製造業の利益が拡大すれば、必然的に若手人材への誘因力となることが期待できます。
※出典:経済産業省「2022年版 ものづくり白書」 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/pdf/gaiyo.pdf
※出典:総務省「情報通信白書(令和4年版)」 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd121110.html
製造業のIoT活用事例
ここでは、実際に製造業においてIoTを活用した事例を3つ紹介いたします。活用事例①遠隔からの設備の監視・点検で管理業務軽減
一つ目の事例はIoTを搭載した軽水力発電機です。JICAのODA事業として、水資源は豊富ですが、電気供給率の悪いネパールの農村部にIoT搭載機器を設置することで、水力発電から得られた電力をLED照明に共有し、子どもたちの学びの場つくりに役立っています。
IoTを活用することで、クラウドサーバーに発電状態、水温、水圧、水位などの情報が送信され、スマホによって遠隔から監視・操作することが可能であり、ネパールの農村の機器を遠く離れた日本からスマホで操作可能といいます。また、人感センサーと全方位監視カメラを搭載しているため、日本からスマホでも24時間監視できる点も特筆すべきでしょう。
活用事例②蓄積データの分析で生産効率改善
二つ目の事例は製造現場で生まれる蓄積データの分析で生産効率改善を実現した事例です。
自動車や農業機械などの部品をつくる板金・プレス加工を営むある企業の事例をご紹介します。
同社はIoTを活用することで生産工程の見える化を行っており、独自開発したソフトウェアを工場内の機械に搭載し、作業の進捗や機械の不具合をシステムで分析し、そのデータをタブレット端末やスマートフォンで社員全員が確認・共有できる体系を構築しました。結果として、機械のトラブルを早めに察知して適切なタイミングで対応し、作業効率を落とさずに生産できるようになったそうです。
また、同社は現在「従業員の動き」を分析するシステムを開発中です。工場内に18台のWebカメラを設置して24時間体制で従業員の動きに無駄がないかを管理することで生産効率改善できる体制の構築を目指しています。
※出典:経済産業省「2018年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun_pdf/pdf/honbun01_01_03.pdf
活用事例③環境モニタリングを活用した熱中症対策
工場やプラントなど防爆エリア(火災や爆発が起こり得る、空気中に可燃性物質が存在する場所)では、熱中症のリスクがあるものの、利用可能なデバイスに制限があります。
防爆エリアに限らず、熱中症の危険にさらされている製造業従事者は多くいます。IoTを活用することでそのモニタリングができれば、安心安全な職場環境を作り上げることができ、製造業に対する「3K」のイメージを払拭する一助になるに違いありません。
活用事例④ICタグをハンディリーダーで読み取りモノの位置を一発表示
物品や資料を保管する倉庫での現場作業を効率化するためにもIoTが活用されています。ある企業は棚卸しや出庫する際に倉庫に張られた紙を目視することで保管期限などを管理していましたが、アナログな管理体制には工数がかかる上、ミスも起こりやすくなります。
従来のモノ一つひとつにバーコードを付けた管理では、至近距離でないと読み取れない、商品一つずつしか読み取れないなどの難点がありました。しかし、ICタグをハンディリーダーで読み取る技術によって、モノの位置を一括で読み取り、倉庫のどこにどのくらいのモノがあるかを把握することができるようになりました。結果として、業務全体の60~90%の工数を削減できたとのことです。
IoT化を低コストで始めるためには
IoT化と聞くと膨大なコストがかかるため、とても中小企業には手が出せないと感じるかもしれません。しかし、ちょっと調べてみると分かることですが、IoT化を始めるために必要なセンサーなどの部品は以前よりもかなり安価で手に入るようになっています。
例えば、自動車のエンジンやトランスミッション、ブレーキ部品などを製造する部品メーカーでは各ラインの稼働状況を把握するための表示板を無線技術の活用で自作しました。部品が1個完成するごとに点灯するライトを光センサーに感知させる装置で、その際に使っていた光センサーは1個50円、リードスイッチは1個250円という安価なものだったとのこと。しかし、その結果1時間あたりの生産個数は6割増加し、設備投資が必要なくなったのです。
この事例から分かることは、IoT化を実現するために立派な設備やシステムは必要ではないということです。安価な部品で自作したり従来の機器に計測器を付けたり、小さな変化から業務フロー全体を大きく変える変革が起こせるかもしれません。
コストに合わせて製造業でのIoT化を進めよう
上述したようにIoT化するために必ずしも外注し、膨大なコストをかけて立派なシステムを導入しなければならない訳ではありません。大切なことは、IoT化ではなく、IoTによって何を成し遂げたいのかということでしょう。
そのためには、現在の業務フローを分析し、課題を丁寧に抽出することが必要不可欠です。製造現場で業務に携わっている従業員の困りごとをヒアリングし、何をどのように解決したいのかを明らかにしましょう。その上で、IoTが得意とするデータ収集や見える化をどう組み入れることができるのか、コストに合わせて検討することをおすすめします。
カナデンでは、お客様のニーズに最適なIoTシステムの導入から導入後のアフターサポートまで、ワンストップでお手伝いいたします。最新のIoTやAI技術を活用したソリューション提案も可能です。IoTシステムについてお悩みごとがあれば、まずはお気軽にご相談ください。
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