防爆とは?防爆の基礎知識から近年のトレンドまで徹底解説
可燃性物質を取り扱う工場やプラントでは、電子機器の使用によって火災や爆発などの事故が起こる可能性があります。企業は大きな事故を防ぐためにも、適切な対策を取らなければなりません。
本記事では、可燃性物質が存在する工場などでの火災や爆発を防ぐために必要な防爆の基礎知識や、近年の防爆のトレンドなどについて解説していきます。防爆の知識を深めて、安全に働くことができる環境を作っていきましょう。
防爆とは?
「防爆」とは可燃性物質が存在する場所で、電子機器などが点火源となり火災や爆発が起きることを防ぐ技術的な対策のことです。
工場などの現場の中には、可燃性のガスや蒸気、粉じんなどが存在する場所があります。可燃性物質が空気に混ざり合うことで爆発性雰囲気が生成され、電子機器から発生する火花やアーク(気体放電現象)、熱などの点火源と触れ合うと、火災や爆発が起きてしまいます。
上記のような火災や爆発が起きる可能性のある、爆発性雰囲気が存在する場所のことを「危険場所」と呼びます。日本では、労働安全衛生規則第280条及び、電気機械器具防爆構造規格第1条に基づいて、危険場所では適した防爆構造が施された電子機器(防爆機器)を使用しなければなりません。
危険場所の分類
危険場所は、可燃性物質の種類によって大きく以下の2つに分けられます。
・ガス蒸気危険場所
・粉じん危険場所
ガス蒸気危険場所
ガス蒸気危険場所が存在する主な業界や業種、施設は以下の通りです。
・石油/ガス/化学薬品などを取り扱っているプラント
・塗料/インクの製造工場
・薬品製造工場
・酒類製造工場
・樹脂製造工場
・タイヤ製造工場
・製品のパッケージなどに可燃性の素材を使っている製造工場
・ガソリンスタンド
またガス蒸気危険場所は、可燃性のガスや蒸気の濃度によって、火災や爆発が起こり得る危険度を3段階に分類します。それぞれの特徴は以下の通りです。
危険場所 | 詳細 | 代表的な場所 |
---|---|---|
特別危険箇所 (0種場所、Zone0) |
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第一類危険箇所 (1種場所、Zone1) |
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第二類危険箇所 (2種場所、Zone2) |
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粉じん危険場所
粉じん危険場所が存在する主な業界や業種、施設は以下の通りです。
・食品業の工場・倉庫
・金属加工業の工場・倉庫
・製紙工場
・建材製造工場
・化粧品原料工場
・製薬工場
・ゴムのリサイクル工場
・花火製作所
・産業廃棄物処理業者の作業場所
粉じん危険場所は、粉じんによって火災や爆発が起こり得る危険度を3段階に分類します。それぞれの特徴は以下の通りです。
危険場所 | 詳細 |
---|---|
ゾーン20 | 通常時において粉じんが空気中に長時間または頻繁に、もしくは連続して存在する場所 |
ゾーン21 | 通常時において粉じんが空気中に断続的に存在する場所 |
ゾーン22 | 通常時において粉じんが空気中に短時間のみ存在する場所 |
なお、危険場所について詳しく知りたい方は、以下のページもぜひ参考にしてください。
関連記事「防爆エリア(危険場所)の基礎知識と分類方法を解説」
防爆規格の種類
防爆規格とは、製造された防爆機器が十分な防爆性能を有することを確認するための標準の構造や寸法などを定めた規格です。試験によって規格に適合していると認められた製品のみ、危険場所で使用できます。防爆規格は複数あり、国によって採用されている規格が異なります。
日本の防爆規格
日本における、主な防爆規格は以下の2つです。
防爆規格 | 特徴 |
---|---|
電気機械器具防爆構造規格(昭和44年労働省告示第16号)※ 通称「構造規格」 |
|
工場電気設備防爆指針 (国際整合技術指針 Ex2015,Ex2018,Ex2020) ※ 通称「整合指針」 |
|
国から認可を受けた登録検定機関「公益社団法人産業安全技術協会(TIIS)」などによる「防爆構造電気機械器具に係る型式検定」に合格している電子機器であれば、原則どちらの規格の製品を使用しても問題ありません。ただし構造規格と整合指針で、表示記号や対象となる危険場所が異なるケースがあるので、必ず事前に確認しておきましょう。
また型式検定に合格した防爆機器には、型式検定合格証が発行されます。防爆機器の性能を知りたい場合は、製造元や販売元から仕様書もしくは合格証の写しをもらい、表示記号をチェックしてください。表示記号については記事後半で解説しています。
海外の防爆規格
前述した通り、国によって採用している防爆規格が異なります。以下は、海外で採用されている代表的な防爆規格です。
防爆規格 | 対象となる国 |
---|---|
IECEx | 国際規格 ※主要先進国を含む30カ国以上 |
UL規格 | アメリカ合衆国 |
ATEX | ヨーロッパ各国 |
海外の防爆規格の認証を受けているだけでは、日本の危険場所では使用できないのでご注意ください。日本の危険場所で防爆機器を使う際には、構造規格もしくは整合指針のどちらかの認証を受けている必要があります。反対に海外の危険場所で防爆機器を使う際は、その国で定められた防爆規格の認証を受けなければなりません。
防爆構造の種類
一口に防爆機器と言っても、その構造はさまざまです。ここでは、10種類の防爆構造について解説していきます。
耐圧防爆構造
「耐圧防爆構造」は、多くの電子機器に適用されている防爆構造です。頑丈な容器で電子機器を囲っており、万が一、可燃性のガスや蒸気が内部に侵入し爆発が起こったとしても、容器が破損して外部に点火することを防ぎます。
内圧防爆構造
「内圧防爆構造」は、電子機器を容器で囲い、その中に保護ガスを注入する防爆構造です。保護ガスを注入することで容器内の圧力を高い値に保ち、外部に存在する可燃性のガスや蒸気が侵入することを防ぎます。
安全増防爆構造
「安全増防爆構造」は、通常時は点火源になる恐れがない電子機器に対して、より安全性を高めるために施す防爆構造です。外部からの損傷や温度上昇を防いだり、絶縁性を高めたりすることができます。比較的軽量のまま使用できることも、特長の一つです。
ただし容器の耐久性についての基準がなく、容器内部で発火や爆発が起きた場合に、外部の可燃性のガスや蒸気に点火する可能性もゼロではありません。
油入防爆構造
「油入防爆構造」は、電子機器を油に浸す防爆構造です。油に浸すことで電気絶縁と爆発防止の効果があり、外部に存在する可燃性のガスや蒸気に点火しない仕組みになっています。
本質安全防爆構造
「本質安全防爆構造」は防爆構造の中でも防爆性が高く、通常時だけでなく故障時でも、電子機器による火花やアークが点火源とならないことが、公的機関の試験によって確認された構造です。
非危険場所にある制御盤に安全保持器を設置し、危険場所にある本体と接続する仕組みになっています。安全保持器からは微弱な電流だけが流れるため、火災や爆発が起こることがありません。
樹脂充填防爆構造
「樹脂充填防爆構造」は、絶縁性の樹脂で電子機器の火花やアーク、熱などが発生する部分を囲う防爆構造です。樹脂が容器を兼ねることもでき、防爆機器を小型化できます。他の防爆構造と組み合わせることも可能です。
非点火防爆構造
「非点火防爆構造」は通常時の他、故障時においても外部に引火する恐れがない電子機器だけに適用できる防爆構造です。「簡易防爆」と呼ばれる場合もあります。
特殊防爆構造
「特殊防爆構造」は、前述した耐圧防爆構造、内圧防爆構造、安全増防爆構造、油入防爆構造、本質安全防爆構造、樹脂充填防爆構造、非点火防爆構造以外の防爆構造です。特殊防爆構造にはさまざまなものがありますが、公的機関の試験などによって安全性が確認され、認証を受けたもののみ危険場所で使用可能です。
粉じん防爆普通防じん構造
粉じんは「可燃性粉じん」と「爆発性粉じん」の2種類に分けられますが、「粉じん防爆普通防じん構造」は、可燃性粉じんによる火災を防ぐための防爆構造です。電子機器を容器で囲い、接合面にパッキンを取り付けたり、接合面の奥行きを長くしたりすることで、内部に粉じんが入り込まない仕組みになっています。
粉じん防爆特殊防じん構造
「粉じん防爆特殊防じん構造」は、爆発性粉じんによる爆発を防ぐための防爆構造です。粉じん防爆普通防じん構造と同様に、電子機器を覆った容器の接合面にパッキンを付けることで、内部に粉じんが入り込まない仕組みになっています。また外部の粉じんに容器の温度上昇が伝わらないような構造にもなっています。
防爆構造と危険場所の対応表
ここまでご紹介した防爆構造は、それぞれ対応している危険場所が異なります。また同じ防爆構造であっても、構造規格と整合指針で対応している危険場所が異なるケースがあるため、規格にのっとって適切な場所で使用するようにしましょう。
特別危険箇所(0種場所、Zone0)に対応した、日本の防爆規格の認証を受けている防爆機器は、2023年1月時点ではまだありません。また該当の危険場所が第一類危険箇所(1種場所、Zone1)なのか第二類危険箇所(2種場所、Zone2)なのか分からない場合は、第一類危険箇所(1種場所、Zone1)に対応した防爆機器を選ぶようにしてください。
危険場所の分類 | 防爆構造(構造規格) | 防爆構造(整合指針) |
---|---|---|
特別危険箇所 (0種場所、Zone0) |
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第一類危険箇所 (1種場所、Zone1) |
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第二類危険箇所 (2種場所、Zone2) |
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また粉じんに対する防爆構造について、構造規格では前述した通り粉じんの種類によって防爆構造が変わりますが、整合指針では「容器による粉じん防爆構造」の1種類のみで、危険場所によって使用できる電子機器が異なります。
防爆構造(構造規格) | 対象となる粉じん |
---|---|
粉じん防爆普通防じん構造 |
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粉じん防爆特殊防じん構造 |
|
防爆構造(整合指針) | 対象となる危険場所 |
---|---|
容器による粉じん防爆構造 |
|
防爆構造について詳しく知りたい方は、以下のページもぜひ参考にしてください。
防爆機器の表示の見方
繰り返しになりますが、防爆構造は、構造規格と整合指針で表示記号や一部の分類が異なります。どちらの規格を採用しているのか、どのような防爆性能なのかを確認するには、防爆機器の表示記号を確認しましょう。ここからは表示記号の見方について解説していきます。
電気機械器具防爆構造規格(構造規格)
構造規格の場合、防爆機器には以下のような表示があります。
・表示例:〇〇 ◆ G◇
・具体例:d 2 G4
「〇〇」は防爆構造の種類、「◆」は機器の爆発等級、「G◇」は発火度を示しています。
防爆構造の種類
構造規格では、防爆構造の種類をそれぞれ以下の記号で表します。
防爆構造の種類 | 記号 |
---|---|
耐圧防爆構造 | d |
内圧防爆構造 | f |
安全増防爆構造 | e |
油入防爆構造 | o |
本質安全防爆構造 | ia,ib |
樹脂充填防爆構造 | ma,mb |
非点火防爆構造 | n |
特殊防爆構造 | s |
粉じん防爆普通防じん構造 | DP |
粉じん防爆特殊防じん構造 | SDP |
爆発等級
爆発等級は、外部の可燃性物質へ点火しない容器の隙間サイズによって、以下のように表示されます。
爆発等級 | 詳細 |
---|---|
1 | 奥行25mmで、火炎逸走を生ずる隙間の最小値が0.6mmを超える |
2 | 奥行25mmで、火炎逸走を生ずる隙間の最小値が0.4mmを超え、0.6mm以下 |
3 | 奥行25mmで、火炎逸走を生ずる隙間の最小値が0.4mm以下 |
発火度
発火度は、可燃性のガスや蒸気が自然発火する温度によって、以下のように表示されます。
発火度 | 発火点 |
---|---|
G1 | 450度を超える |
G2 | 300度を超え、450度以下 |
G3 | 200度を超え、300度以下 |
G4 | 135度を超え、200度以下 |
G5 | 100度を超え、135度以下 |
また爆発等級と発火度ごとの代表的な可燃性ガスの種類は以下の通りです。
発火度 G1 | 発火度 G2 | 発火度 G3 | 発火度 G4 | 発火度 G5 | |
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爆発等級1 |
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- |
爆発等級2 |
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- | - | - |
爆発等級3 |
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- | - |
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工場電気設備防爆指針(整合指針)
整合指針の場合、防爆機器には以下のような表示があります。
・表示例:Ex 〇〇 ◆◆ T◇
・具体例:Ex dⅡB T4
冒頭の「Ex」は整合指針であること、「〇〇」は防爆構造の種類、「◆◆」は機器のグループ記号、「T◇」は温度等級を示しています。
防爆構造の種類
整合指針では、防爆構造の種類をそれぞれ以下の記号で表します。
防爆構造の種類 | 記号 |
---|---|
耐圧防爆構造 | d,da,db,dc |
内圧防爆構造 | pv,px,py,pz |
安全増防爆構造 | e,eb,ec |
油入防爆構造 | o,ob,oc |
本質安全防爆構造 | ia,ib,ic |
樹脂充填防爆構造 | ma,mb,mc |
非点火防爆構造 | nA,nC,nR |
特殊防爆構造 | sa,sb,sc |
容器による粉じん防爆構造 | ta,tb,tc |
グループ記号
機器のグループ記号は、電子機器を使用する場所に存在し得る可燃性物質によって以下のように分類されます
グループ記号 | 詳細 |
---|---|
Ⅱ | 可燃性のガスや蒸気が存在し得る場所で使用する電子機器 ※可燃性のガスや蒸気の性質によって、A、B、Cに細分化される |
Ⅲ | 可燃性、爆発性の粉じんが存在し得る場所で使用する電子機器 ※粉じんの性質によって、A、B、Cに細分化される |
温度等級
温度等級は、電子機器の最高表面温度を以下の記号で表示します。
温度等級 | 電子機器の最高表面温度 |
---|---|
T1 | 450度 |
T2 | 300度 |
T3 | 200度 |
T4 | 135度 |
T5 | 100度 |
T6 | 85度 |
またグループ記号と温度等級ごとの代表的な可燃性ガスの種類は以下の通りです。
温度等級 T1 | 温度等級 T2 | 温度等級 T3 | 温度等級 T4 | 温度等級 T5 | 温度等級 T6 | |
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グループ記号 ⅡA |
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- | - |
グループ記号 ⅡB |
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- |
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- | - |
グループ記号 ⅡC |
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- | - |
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- |
近年の防爆トレンド
近年さまざまな業界で、業務の効率化や生産性の向上を目的とした、IoTやAIなどを用いた業務のデジタル化が進められています。工場などの現場においても例外ではなく、さまざまな用途で「危険場所に電子機器を持ち込みたい」という需要が高まってきています。具体的には以下の通りです。
作業員のチェック作業の効率化 |
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安全性の向上 |
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犯罪の抑制やトラブル時の状況把握 |
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その他 |
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適切な防爆性能を有した電子機器を導入することで、作業の効率化、作業員の安全性の向上など、さまざまなメリットを得られます。
適切な防爆機器を導入し、工場のデジタル化を進めていきましょう
本記事では、可燃性物質による火災や爆発を防ぐための技術的対策である「防爆」について解説してきました。
今後、生産性の向上や作業の効率化などの観点から、工場などの現場でもデジタル化が加速していくことが予想されます。まずは自社の施設に危険場所があるのか、もしある場合は危険度を確認してください。そして状況に応じて、日本の防爆規格の認証を受けている防爆機器の導入を進めていきましょう。
なお防爆機器の利用を検討している方や防爆機器について不明点がある方は、防爆機器を多数取扱っているカナデンにお気軽にお問い合わせください。