振動センサで老朽化に備える!使用目的や種類・活用例
公開日:2024.03.12 更新日:2025.06.24
振動センサは、建物や設備などの劣化を早期に察知するため、さまざまな場所で導入されています。建物や設備を長く安心して使うために重要な装置ですが、どの振動センサを使用するのが最適か迷う場合もあるでしょう。
そこで本記事では、予知保全のために振動センサを導入する際に知っておきたい振動の概念や、振動センサの基本的な仕組みなどを解説します。振動センサには複数の種類があり、導入目的によって最適な機器が異なります。振動センサの種類による違いも解説するので、振動センサの導入を検討している方は、ぜひお役立てください。
振動センサとは?構造物の振動を計測する
振動センサとは、建物や設備などの震えを検知、計測し、数値化するシステムです。建造物だけでなく、道路やダムなどの揺れの計測にも使用されます。
振動を数値化するための尺度は、変位・速度・加速度の3つです。
- 変位:測定対象の移動量、または大きさの変化量を表しています。構造物単体の振動や低速回転機器などの異常検知に適しています。
- 速度:一定時間当たりの変位量が速度です。変位量を経過時間で割って求められ、各種モーターの異常検知に適しています。
- 加速度:一定時間当たりの速度変化量が加速度です。ベアリングなどの異常検知に適しています。
この3つは変換できる関係にあり、変位を微分すると速度、速度を微分すると加速度になり、反対に加速度を積分すると速度、速度を積分すると変位になります。
振動の定義と振動センサの仕組み
振動を計測するための尺度が3つあるのは、振動の仕方に種類があるからです。振動の定義、振動センサの基本構造を見ていきましょう。
振動の定義
広辞苑によれば、振動とは「①ゆれうごくこと。ふりうごかすこと。②物体が一つの中心のまわりを、ほぼ一定の周期をもって、ゆれうごくこと。また、電磁場・電流の強さで、ある量が一定値を中心に同様な時間的変化をする場合にもいう。」と明記されています。振動は、物体に何らかの力(押す力、引く力など)が加わった際、その物体が元の状態に戻ろうとすることで発生する物理現象です。
振動の種類は、加わる力の特性や減衰の有無などによって複数の種類があります。中でも振動の方向による種類は、直線振動、曲げ振動、ねじり振動の3つです。
振動は前章で述べた変位・速度・加速度によって定量化されますが、周波数も大きく関係しています。変位を検知する振動の周波数は主に100Hz以下、速度を検知する振動の周波数は10Hzから1,000Hz、加速度を検知する振動の周波数は1,000Hz以上です。
振動センサの基本的な仕組み
振動センサの構造は、一般的に振動を検知するセンサと、検知した振動を測定する機器が一体となっています。
センサ内にはおもりやバネが備えられ、外圧を受けて発生した振動が伝わります。振動を受けるとおもりは動き、その動きが電気を発する物質によって電気信号化される仕組みです。
振動センサの種類は?
振動センサの種類は、振動センサの設置方法や振動を伝えているものによってさまざまあり、接触式と非接触式に大別されます。
振動センサを使用する場合は、対象物に振動センサを取り付けられるかどうかや、振動の周波数などに応じ、最適な種類の振動センサを使用することが大切です。
接触式
接触式の振動センサは、測定したい対象物に直接固定して使用します。振動する本体とともに、センサ自体も振動することが特徴です。
- 圧電型
水晶の単結晶やチタン酸バリウム(圧電素子)をバネとして使用し、力がかかったときに発生する電荷を測ります。 - 動電型
磁気回路中のコイルが力を受けて磁場の流束を切るように動くと、直角方向に運動速度に比例した起電力が発生する原理を用い、その電気量から振動を計測します。 - ストレインゲージ型
ストレインゲージ(電気抵抗線ひずみ計)を貼り付けた金属に荷重を加え、金属のひずみにより変化する抵抗値を測定します。 - サーボ型
振り子の原理を応用し、地動と相対運動する振り子の運動を測定します。
非接触式
非接触式の振動センサは、文字どおり振動する対象物には触れていません。振動センサと対象物間にある空間に電気を発する物質を置き、対象物の振動による変動を見ることで振動を測定します。
- 静電容量型
振動センサと対象物の間の静電容量から距離、振動を測定します。 - 渦電流型
高周波磁界を利用して距離、振動を測定します。 - レーザードップラ型
対象物から反射されたレーザー光の周波数変化(ドップラー効果)により振動を測定します。
振動センサを使用する目的
振動センサを使い建物や設備などの振動を測定することは、その建物や設備などを使用する人々の安全を守るために欠かせない検査です。振動センサはさまざまなシーンで活用されていますが、おもな使用目的は次の2つに分けられます。
建物や設備などの予防保全
建物や設備が劣化すると、熱の発生や異音などさまざまな変化が現れます。異常振動もその一つです。振動センサを使用して継続的にデータを取得することで、建物や設備などの不具合を早期に発見して分析し、予防保全に活用することが大きな目的です。
単に機械の故障を事前に察知するだけでなく、交換部品を速やかに手配する、機械故障によって起こる生産ラインの停滞を防止するなど、効率的な運用につながります。
異常な状態で生産された商品は不良品となる可能性も高く、振動センサの使用は不要な生産コストの増大の回避にもつながるでしょう。
また、マンションのエレベーターなどが故障し復旧に時間を要する場合など、適切なライフラインの維持を損なうケースが発生する場合もあります。老朽化や不具合について早い段階で対策し、体制を整えておくことが重要です。
検査ラインでの異常診断
すでにある設備だけでなく、製品の生産過程における検査においても、振動センサは重要な働きをします。特に電子部品などは、商品の耐久性や安全性を評価する指標として振動特性を測定することが一般的です。検査ライン上での振動の異常検知により、製品の仕組み改善や使用材料の変更を行い、結果として品質の向上につながります。
どれだけ丈夫か、どの程度長持ちするかがある程度判断でき、品質保証の策定にも活用できる重要なデータといえるでしょう。これから商品を使う人々に信頼性の高い製品を届けることが大きな目的です。
振動センサの利用シーン
振動センサはどのようなシーンで利用されているのでしょうか。ここからは、振動センサの具体的な利用シーンを3つ紹介します。
建設現場や生産現場の機器
振動センサは、建設現場や生産現場の機器に利用されています。
建設現場ではさまざまな機器が稼働していますが、異常な振動が発生すると、機器の故障につながってしまいます。振動センサで機器の振動測定を実施することで、機器の異常をいち早く見つけることができるため、機器の故障を防ぐことが可能です。加えて建設現場では、地盤や建造物への振動による影響を評価し、安全基準を遵守することが求められます。振動センサによる測定を適切に行うことで、安全性を確保しながら建設が進められるでしょう。
さらに、建設現場での振動は、周辺住民からの苦情の原因になります。一定以上の値を超える振動が観測された際にアラートを発する振動センサを取り付けておけば、クレームのない建設作業を目指せます。
続いて生産現場で振動センサが用いられる目的は、生産機器の状況を把握するためです。振動を監視しておけば、故障の予兆となる異常を早い段階で見つけられるため、故障による生産ラインの停止を防げます。生産機器の状況を把握しておけば、適切なメンテナンス計画も立てやすいです。万が一故障が起こった際も、最小限にとどめられる可能性が高くなるので、修理にかかるコストも抑えられるでしょう。
振動センサを取り付ける具体的な機器・設備は、サーモモーターやインバーター、コンプレッサー、大型ファンなどです。ドリルの折損やベアリングなどの故障予知も行い、部品確保など迅速な対策に活用されています。
カナデンでは「機械設備の故障・破損を未然に防ぎたい」というお客さまに、振動予知保全システムをご提案しました。6軸センサを搭載した振動予知システムにより、機械設備のデータをリアルタイムで収集でき、異常の前兆を素早く見つけることが可能です。また、独自アルゴリズムを用いた劣化指標表示機能によって、適切なタイミングでのメンテナンスが行えます。
振動予知保全システムを導入して予知保全を行う場合、まずチェック対象となる機械設備へのセンサの設置が必要です。センサはリアルタイムで振動波形を計測し、分析を行って、チェック対象となる機械設備の周波数帯を特定します。収集した振動データを用いて機械学習を行うことも可能です。
また、振動予知保全システムを導入すれば、データを基にしきい値の設定を行うこともできます。しきい値とは、特定の事象が起こる際の境界となる数値のことです。異常を予知するための正確なしきい値の設定は難しいとされていますが、収集したデータを活用すれば、適切なしきい値を設定できます。最適なしきい値を設定することで、正常な範囲内での許容振動と異常振動を正確に区別できるので、適切なタイミングでの保守・修理が可能です。
機械学習やしきい値の設定などを行ったら、振動予知保全システムを運用します。運用中は状況を随時監視し、正常時との差分が劣化指標としてレポートされます。劣化指標が観測されたタイミングでメンテナンスを実施することで、故障を未然に防ぐことができるでしょう。
カナデンがご提案する振動予知保全システムは、オールインワンパッケージになっているため、導入後すぐに運用を始められます。
水流ポンプ
水流ポンプでも、振動センサを用いた予知保全が行われています。
重要なライフラインである水に関わる設備が故障・破損すると、多くの人の生活に支障が生じかねません。そのため、上下水道設備や排水設備の水冷用ポンプ・排水ポンプには振動センサが設置され、振動の定期的な測定が実施されています。
水流ポンプの劣化や故障の予兆を察知する際、重要な指標の一つとなるのが振動です。また劣化の故障原因によって振動の周波数が異なるので、振動の周波数を特定すれば不具合がどこで起きているかを見極められます。
振動は劣化や故障を察知する重要な指標の一つです。振動センサで定期的に測定を行うことで、人々の快適な生活を維持できます。
製品試験
振動センサは、製品試験にも用いられています。
電子機器や車両などの製品試験では、振動特性を評価するための試験が行われます。振動特性とは、製品が振動をどのように受け止めるかや、どの程度の振動に耐えられるかといった特性のことです。
例えばパソコンやスマートフォンの場合、振動が加わることで内部部品が破損し、正常に動作しなくなる恐れがあります。振動特性の評価を基に、構造や材質などの改善を行うことで、製品が市場に出回る前に品質や安全性を高めることができます。
振動特性の評価では、振動の周波数や振幅、波形などを測定する必要がありますが、その際に振動センサが用いられるのが一般的です。振動センサで測定した正確なデータを基に振動特性を評価し、結果に応じた改良を行うことで、製品の品質や自社の信頼性向上につながるでしょう。
建物や設備の予知保全のため振動センサを活用しよう
振動センサは、建物や設備などの不具合を早い段階で察知して安全に長く使うために重要なシステムです。また、既存の設備だけでなく新たに開発される商品の機能性向上にも活用されています。
振動センサは接触式と非接触式に分けられ、どの物質を用いて振動を計測するかによってさらに細かな種類があります。計測する振動の周波数が異なるため、対象物の振動特性や振動センサを取り付けられる場所、電源の有無などをしっかりと確認して最適な振動センサを選ぶことが大切です。
カナデンでは、予知保全を行う振動センサの導入を含め、製造現場から経営システムまで、全ての階層を効率化する、トータルソリューションの提供も行っています。お気軽にご相談ください。
振動センサの他に、加速度から振動以外のデータも計測する加速度センサや、AE波から振動センサより高い周波数の振動を検知するAEセンサがあります。 今回紹介した振動センサの種類が、全て予知保全に活用されているわけではありません。例えば、スマートフォンなどの精密機器に使われる振動センサと予知保全に使われる振動センサは種類が異なります。振動センサの種類を細かく見るよりも、機能などに注目しながら自社にあった商品を選ぶとよいでしょう。