振動診断とは?診断方法の種類や選び方を解説
公開日:2024.03.12 更新日:2024.06.03
工場や製造ラインで直面する設備機器の突然の故障。設備機器の故障は企業にとって大きな損失を意味します。
振動診断による機器の故障の早期発見は、工場や製造ラインの安定稼働に重要な役割を果たします。振動診断によって故障にともなう生産の中断を防ぎ、経済的な損失を最小限に抑えることが可能です。
本記事では振動診断の基本からその重要性、効果的な導入方法、使用用途に適した振動計の選び方までを幅広くご紹介します。
振動診断とは
振動診断とは、振動を測定し設備機器に異常がないかを分析する手法です。振動から異常なパターンを検知することで、機器の故障や劣化を早期発見するのに役立ちます。
では、なぜ振動で計測するのでしょうか。振動は、計測が容易で多くのデータを取得できることや、解析手法が確立されていることが理由として挙げられます。振動診断によって、さまざまなリスクを最小限に抑えることが可能です。
振動とは、物体が一点を中心としてその前後左右、または上下への運動を繰り返す状態です。測定には、「振動計」と呼ばれるセンサーが組み込まれた機器を用います。振動計は、振動の大きさ(振幅)、振動の速さ(速度)、振動の強さ(加速度)などを測定可能です。
振動診断を行う3つの重要性
ここでは、振動診断の3つの重要性を詳しく解説します。
設備機器の突発的な故障・停止を回避
設備機器が故障する際、通常は何らかの兆候が表れます。一般的に設備機器の点検は「音」「温度」「振動」によって行なわれます。そのなかでも設備機器の状態の変化は、まず振動に表れることが多く、異常を早期発見するための重要な指標です。
そして、振動は感度が高く解析手法も確立されており、異常を早期に検知するのに最適です。異常を初期段階で発見し、対策することで設備機器の突発的な故障や、製造ラインの停止を防ぐことができます。
ライン停止による経済損失を防ぐ
設備機器の故障による製造ラインの停止は、製造ができないことを意味し経済的損失をもたらします。
例えば、単価10円の部品を1分間に100個製造する設備があるとすると、この設備が24時間365日稼働している場合、年間の生産金額は約5億2
,560万円です。この設備が1日にわずか1時間停止するだけで、年間の生産金額は約2,000万円減少します。このことからも製造ラインの停止は、わずかな期間でも企業の収益に大きな影響を与えることがわかります。
コストの削減
設備機器の異常を早期に発見し、消耗部品の交換や修理を迅速に行なうことで、故障時に発生する高額な費用を大幅に削減できます。また、メンテナンスを計画的に行なうことで、交換部品の在庫管理も容易になるはずです。
さらに、適切なタイミングで設備機器の部品を交換することで、劣化を抑え、寿命を延ばすことが可能です。その結果、新しい設備への投資する機会が減り、長期的なコスト削減につながります。
さまざまな業種で必要とされる振動診断
振動診断はその幅広い分析能力により、製造業に限らずさまざまな業種で採用されています。以下で、その活用例をご紹介します。
建築現場
建築現場では、振動が装置や建物の耐久性に影響をおよぼす可能性があるため、振動診断は重要です。振動診断により、異常を早期に検知し必要に応じて対策を講じることが可能になります。また、高額な修理費用や部品交換費用の抑制も期待できるでしょう。
さらに、建築現場で発生する振動は、周辺住民の健康に影響をおよぼす可能性も考えられます。建築現場の道沿いに振動と騒音のレベルを表示する電光掲示板を設置するなどの工夫が必要です。
製品の評価試験
振動が製品におよぼす影響を調査し、品質向上のためにも振動診断が活用されています。例えば、スマートフォンやパソコンなどの電子製品は、振動によって内部のパーツが損傷することがあります。
具体的な分析内容は振動の周波数、振幅、波形などです。これらの分析内容から製品の性能や耐久性に与える影響を調査し、その結果をもとに構造の改善や材料の選択をしていきます。
診断には簡易診断と精密診断がある
振動計を用いた診断方法は、大きく2つに分かれます。それぞれの目的と診断方法が異なるため、詳しく解説します。
簡易診断
簡易診断は対象設備の振動を測定し、設備がどの程度劣化しているのかを調べます。判定方法は3種類あり、以下のとおりです。
- 絶対値判定:測定した振動が特定のレベルを超えた場合に異常と判断
- 相対値判定:対象設備の振動を10回以上測定し、それに基づいた基準値を算出。その基準値と通常時の振動を比較して異常の有無を判断する
- 相互判定:同じ設備の同一測定点からの振動値を比較し、同等設備と比べて2倍以上の差があれば異常と判断
精密診断
故障の初期段階や微小な異常の場合、振動値にはほとんど変化が見られず、検知が難しいことがあります。微小な異常を診断するには、FFT
(高速フーリエ変換)解析による周波数分析が有効です。FFT解析は、複雑な振動波形を分析する方法の一つで、振動波形に含まれる周波数を分解し、診断します。解析には、「FFTアナライザー」と呼ばれるツールを使用します。
振動診断の効果的な導入方法
振動診断を効果的に導入するには、事前にいくつかのルールを決めておくことが大切です。ここでは、事前に決めておくルールや運用方法を紹介します。
診断する機械・設備の重要度をランク付けする
製造に影響をおよぼす度合いや期待できる効果をもとに評価を行ない、最も重要度が高いものから順にランク付けします。
ランク付けの方法は、その設備が1時間停止した場合の影響の大きさや、具体的な損失額を算出することなどが挙げられます。故障した場合の修理に要する時間や費用についても明確にしておきましょう。
診断対象が多ければ良いというわけではありません。限られた人員と費用を効果的に活用できるかの判断が重要です。
振動診断の頻度を設定する
初めは可能な限り短いサイクルで振動測定を行ないましょう。異常が発生する頻度はいつも同じとは限りません。判定基準がまだ定まっていない間は、「どのような傾向にあるか」をとらえ、状態の変化を察知することが重要です。測定値の変化が異常によるものか、それとも別の要因によるものかを正確に判断しましょう。
異常発見時のルールを決めておく
振動値の上昇や基準値を超えるなどの異常を発見したときに、次に何をするかを事前に決めておくことが重要です。
例えば、振動値をグラフで確認する、再診断する、といったように測定値に基づいた対処方法があるとよいでしょう。
設備機器の異常を早期に検知できても、しっかりとしたルールがなければ、生産性の向上は見込めません。診断結果は社内で共有し、メンテナンス業務への反映を図ります。それにより、社員の設備に対する理解や設備管理のスキル向上にもつながります。また、振動診断で得られた効果を公表することも大切です。
振動診断を導入する際には、振動センサを設置する箇所に注意が必要です。理想的な位置は、振動測定を行いたい箇所からできるだけ近い場所になります。しかし、場所によっては、設置が困難であったり、メンテナンス作業の妨げになる可能性もあります。さらに、設置場所の周辺に電源があるか、データ取り込みのためにコードを引き回すことが可能かといった点も確認が必要です。
使用用途に合わせた振動計の選び方
カナデンでは多数のメーカーの振動計を取り扱っています。以下では、利用シーンに合わせた振動計のタイプをご紹介します。
人による巡回診断で使用
人力で設備を定期的に巡回診断するのであれば、ピックアップと本体が一体となっているハンディタイプがおすすめです。
設備機器が正常に動作しているかを定期的に確認し、振動パターンを測定します。通常時には一定の振動パターンを示す機械がそのパターンから外れた場合には、何らかの異常が発生している可能性が高まります。
なお、1台の機器で複数の設備を診断できるため、予算を節約したい方にも最適です。人による巡回診断は振動値だけでなく、目視による異常や異音なども併せて点検できる点がメリットです。
センサを設置してワイヤレスで監視したい
人が近寄れない場所や危険な場所に設置する場合、無線タイプの振動計がおすすめです。設備機器にセンサを取り付けることで、人が出向かなくても設備機器の状態を常時監視することが可能です。わずかな振動の増加でも信号を送信し、異常を早期に発見できます。
最近では、スマートフォンやタブレットを使用して簡単に管理できる機種も登場しています。異常が発生した場合、メール通知などのアラート設定も可能です。
床の振動や回転数の遅い設備を診断したい
低周波や微細な振動を診断したい場合は、高範囲測定タイプの振動計を選びましょう。振動によって悪影響が出る可能性のある精密機械の振動測定に適しています。
また、ミキサーなど回転数の遅い回転機器の振動測定にも使用できます。
ISO振動評価基準で判定
ISO振動評価基準に準拠した判定機能を搭載している振動計は、誰でも簡単に同じ診断ができるため扱いやすい製品です。ISO振動評価基準は、回転機器設備のコンディション判断に広く用いられています。
診断したい設備にピックアップセンサを押し当て、ボタンを押すだけでISO振動評価基準に基づいて判定が可能です。診断計を現場に持っていくだけで利用できます。
当社ではさまざまなメーカーの振動計を取り扱っています。「ベアリング」「ドリルの折れ」の診断など、ニーズに合わせて最適な振動計を提案できます。価格帯は安いもので3万円から、高いもので100万円ほどです。また、センサ設置後のシステムソリューションの提案もできます。測定データの送信、集計、加工、異常時のアラーム設定などです。 プラントメーカーや電機メーカーなど大規模な工場をお持ちの場合は、データ処理や分析機能が付いた高価格で高機能なタイプがおすすめです。初めて振動計を導入する企業には、低価格のモデルから始めてみるとよいでしょう。
まとめ:振動診断により生産性を向上させ、コストを削減する
振動診断は、設備機器の振動を測定し、異常なパターンを検出することで故障や劣化を早期に見つけ出す手法です。振動診断により、設備機器の故障を未然に防ぐことが可能となり、生産性の向上が見込めます。
異常が早期に発見されることで、故障時の高額費用やライン停止にともなう経済的損失の軽減につながります。
振動診断を効果的に導入するには、診断する機械や設備の重要度のランク付け、異常発見時の対応ルールなどをあらかじめ決めておくことが大切です。また、使用目的や機能をしっかり確認し、予算に合わせた振動計を選びましょう。
カナデンでは、多数のメーカーの振動計を取り扱っており、目的に合わせたご提案が可能です。振動診断の導入を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
振動診断を行わないことによる危険性やリスクには、「設備機器の故障によって製造ラインが停止する」「交換部品を常備していない場合は部品の取り寄せが必要になる」「突発的な故障が発生した場合、復旧までに時間がかかる」などがあります。振動診断を行うことで、設備機器の故障を予防し、不良品の発生を防ぐことで品質の向上につながります。