サーモグラフィカメラとは?活用事例や失敗しない選び方
公開日:2024.03.12 更新日:2025.06.24
サーモグラフィカメラの活用を検討しているものの、関連知識が足りず「本当に導入する必要があるのか」「どのような製品を選ぶべきか」と悩まれている企業担当者の方も多いでしょう。
サーモグラフィカメラは、赤外線を検知し、潜在的なリスクを事前に特定するカメラです。サーモグラフィカメラは、用途に合わせて「熱画像解像度」や「フレームレート」などの性能に注目して適した製品を選ぶ必要があります。
この記事では、サーモグラフィカメラの基礎知識や活用事例、最適な選び方などを紹介します。ぜひ参考にしてください。
サーモグラフィカメラとは?
そもそも「サーモグラフィ」とは、物体から放射される赤外線を検知し、温度を色分けして表示する技術です。
この技術を用いて温度を可視化できるカメラを、サーモグラフィカメラといいます。対象物から検知した赤外線を基に、画像や映像として可視化することが可能です。
物体から放たれる赤外線の強さは物体の温度によって異なり、高温の物体からは強い赤外線が、低温の物体からは弱い赤外線が放出されます。この赤外線の強さの違いによって、サーモグラフィカメラの画像や映像では、高温部分が赤やオレンジなどの暖色、低温部分が青や緑などの寒色で表示されるのが一般的です。
サーモグラフィカメラの種類には、天井設置型やハンディタイプなどさまざまなものがあり、取得したデータを取り込める製品もあります。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの商業施設や空港、医療機関などにサーモグラフィカメラが設置されました。そのため、サーモグラフィカメラは体温を測定するカメラと考えている方もいるかもしれません。
しかし、サーモグラフィカメラで測定できるのは、物体の表面温度です。体の表面温度は、実際の体温よりも数度低いといわれているので、サーモグラフィカメラで正確な体温測定を行うことはできません。
似たカメラとの違い
サーモグラフィカメラと似たカメラの一つに「赤外線カメラ」があります。
赤外線カメラとは、人の目には見えない赤外線を利用したカメラの総称です。赤外線は大きく分けて、波長が約0.78〜2.5μmの「近赤外線」、約2.5〜4μmの「中赤外線」、約4〜1,000μmの「遠赤外線」があります。赤外線カメラに搭載された赤外線LEDを照射した際に反射した赤外線の画像処理を行うことで、暗闇でも人や物を撮影することが可能です。コンビニなどの店舗やコインパーキング、自宅などの夜間の防犯、野生動物の観察などに用いられています。
赤外線を利用したサーモグラフィカメラは、赤外線カメラの一種です。赤外線カメラの中でも、温度測定ができるカメラがサーモグラフィカメラと呼ばれます。サーモグラフィカメラに使用される赤外線の波長は、主に中赤外線から遠赤外線の範囲です。人の目では確認できませんが、分子の動きが完全に止まるとされる絶対零度以上の物体は、赤外線を発しています。サーモグラフィカメラは、物体が発する赤外線の強弱を捉えることで、物体の表面温度を測定し、温度別に色分けした画像処理を行うことが可能です。
また、サーモグラフィカメラと混同されやすいカメラの一つに、「サーマルカメラ」もあります。
サーマルカメラも赤外線カメラの一種です。サーモグラフィカメラが温度を測定できるのに対し、サーマルカメラは温度測定ができません。サーマルカメラは、温度を活用した測定手法を用いて物体を映像化する場合や、対象物の温度が周囲と比べて高いか低いかを判断する必要がある場面で使用されます。
サーモグラフィカメラの特長
前述の通り、サーモグラフィカメラは危機を事前に検知できる特性を持つことから、多くの業界で活用されています。
ここでは、サーモグラフィカメラの特長を5つ紹介します。
見えない熱を可視化できる
サーモグラフィカメラは、肉眼では捉えることのできない赤外線を可視化し、熱画像として生成します。温度の高いものを赤く、低いものを青く表示し、さまざまな情報を取得することが可能です。
サーモグラフィカメラでは、人が見ることのできない温度分布や温度変化を正確に把握できます。
非接触でも測定できる
一定の距離を保ちながら、非接触で対象物の表面温度を測定できるのも、サーモグラフィカメラの特長です。
近づくことが難しい感染症対策や危険物の監視などに活用されています。また、衛生面から手で触れることができない生鮮食品の検査などにも役立っています。
暗闇でも撮影できる
赤外線は通常の光より透過性が高く、暗闇でも温度測定が可能です。そのため、サーモグラフィカメラは地下の作業現場や夜間警備など、光の届かない場所でも活用されています。また、夜間のリアルタイムモニタリングも可能です。
霧や煙で視界が悪くても撮影できる
サーモグラフィカメラは、暗闇と同様に、霧や煙の立ち込める見通しの悪い場所でも使える測定機器です。
視界が悪い状況でも人や物を撮影できるため、消防や災害の現場などでも有用とされています。また、製造現場などでのトラブル発生時には、迅速な対応をするための助けとなることもあります。
広い範囲を測定できる
カメラで広範囲の対象物の表面温度を測定できるのも特長の一つです。一度に多くの対象物を測定できるため、製造ライン上にある複数の機器を管理しやすくなります。
また、広範囲で人の表面温度を測定できることから、医療機関や空港などの人の出入りが多い場所で、発熱者を検知するのにも活用されています。
問題を早期発見でき、すぐに対応できる
異常な温度を検知するサーモグラフィカメラを活用すると、問題を早期発見でき、迅速な対応を取ることが可能です。
目には見えない問題を早い段階で察知できるため、事態が深刻化する前に対処できます。その結果、前述した生産性向上やコスト削減につながるでしょう。
コロナの感染拡大対策の一環として、非接触で温度を測定できるサーモグラフィカメラの認知度・導入率は大きくアップしました。
サーモグラフィカメラは、以前は100万~200万円といった非常に高額な価格でした。しかし、現在はさまざまなシーンで活用されるようになったこともあり、種類にもよりますが10万円程度で購入できるものもあります。
サーモグラフィカメラで「危機」を事前に検知する重要性
サーモグラフィカメラを活用することで、危機を事前に検知し、対策を講じることが可能です。ここでは、危機を事前に検知することで得られる利点を解説します。
生産性が上がる
問題を早期に発見できるため、迅速な対応で最悪の事態を回避することにつながります。
また、万が一設備の故障や停止に陥っても、発見が早ければ復旧までの時間も早くなり、生産の中断時間を最小限に抑えられます。
問題が表面化する前に予防措置を講じられることから、スタッフは予防的なアクションを取りながら作業ができます。そのため、ユーザビリティの向上や、生産性アップも期待できます。
コスト削減につながる
サーモグラフィカメラの活用は、装備や設備の不具合に対して先手を打った予防策を可能にし、故障リスクの軽減にもつながります。そのため、企業は修理やメンテナンスといった関連コストを削減できるでしょう。
さらに、サーモグラフィカメラは環境や装置を非接触監視できるので、従来の監視方法と比べて人件費削減も期待できます。
セキュリティが向上する
暗闇や見通しの悪い場所において、不審者などの侵入や温度変化を検知できることがサーモグラフィカメラの利点です。建物全体や広範囲の一括監視が可能となるため、大型施設などのセキュリティ向上につながります。また、昼夜を問わず24時間体制の監視にも適しています。
サーモグラフィカメラの選び方
サーモグラフィカメラを選ぶ際は、どのような機能を求めるかや、どのような物体の温度測定を行いたいかなどによって、最適な製品が異なります。サーモグラフィカメラを選ぶ際のポイントをご紹介するので、自社に合った製品選びの参考にしてみてください。
画像精度を求めるなら「熱画像解像度」で選ぶ
熱画像解像度は、画像をどれだけ細かく鮮明に表現できるかを測る指標です。解像度が高いほど、細かい温度差や詳細な温度分布を取得できます。
解像度の高いサーモグラフィカメラの場合、小さな温度変化を鮮明に測定でき、精密な温度マッピングを作成することが可能です。熱変化が重要となる機器や、科学的調査にも向いています。
フリアーシステムズジャパン株式会社のコンパクトサーモグラフィカメラ「FLIR C5」は、熱画像解像度に優れた製品です。138×84×24mmで、0.19gのコンパクトなカメラでありながら、メーカー従来モデルのサーモグラフィカメラの4倍に当たる解像度160×120(19,200ピクセル)の解像度を誇ります。撮影した画像は、クラウドサービスを活用して保存できるため、画像ファイルの管理や共有も簡単です。
動く物の温度を測るなら「フレームレート」で選ぶ
フレームレートは、1秒当たりに何回画面が更新されているかを示す数値です。フレームレートが高いほど、動く物の温度変化を素早く検知できます。フレームレートの単位はHz(ヘルツ)です。例えば、10Hzの場合、1秒間に10回画面が更新されます。
フレームレートの値が高ければ高いほど、滑らかに画面を表示することが可能です。そのため、フレームレートの高いサーモグラフィカメラは、動きの激しい状況を測定するのに適しています。ベルトコンベア上を移動する製品の温度管理などには、フレームレートの高いものを選ぶとよいでしょう。一般的に動いているものの温度測定や、測定者が動きながらの温度測定には、20〜25Hz以上のフレームレートが推奨されています。
オプテックス・エフエー株式会社の赤外線サーモグラフィ「Xi400シリーズ」は、80Hz/27Hz切換式のフレームレートを採用したサーモグラフィカメラです。382×288ピクセルの高解像度なので、距離がある場所からでも精度の高い温度測定が行えます。またパソコン操作で電動フォーカス調整ができるため、装置内にサーモグラフィカメラを設置したい場合にもおすすめです。挟角・標準・広角・超広角・マイクロスコープの5つのレンズを搭載しているので、設置環境や測定対象などに合わせた測定が行えます。
温度差を精密に測るなら「温度分解能」で選ぶ
温度分解能とは、検知可能な最小の温度差のことです。温度分解能が高いほど、小さな温度差を正確に測定できます。例えば、温度分解能が0.1なら0.1度刻み、0.05なら0.05度刻みで温度測定が可能です。
温度分解能に優れたサーモグラフィカメラは、医療診断に用いるような精密さが要求されるケースに適しています。商品開発や研究におけるデータ測定時にも、有益な結果を期待できます。測定対象によってどの程度細かく温度測定をする必要があるか変わってくるので、導入する際は自社でどの程度の温度分解能が必要か、しっかりと検討するようにしましょう。
フリアーシステムズジャパン株式会社のコンパクトサーモグラフィカメラ「FLIR C5」の温度分解能は、0.07度です。コンパクトで導入しやすいサーモグラフィカメラでありながら、0.07度刻みで測定ができるため、正確な温度測定をしたい場合に適しています。
幅広い温度を測るなら「測定温度範囲」で選ぶ
測定温度範囲とは、正確に測定できる温度の最小値から最大値までの範囲のことです。測定温度範囲が広いほど、幅広い温度を測定できます。
例えば、冷凍食品の品質管理であれば最小値の低いもの、高熱を扱う金属加工には最大値の高いものを選ぶ必要があります。業界や用途に合わせて、適した測定温度範囲のサーモグラフィカメラを選びましょう。
オプテックス・エフエー株式会社の赤外線サーモグラフィ「Xi400シリーズ」は、以下の3つの測定温度範囲を切り替えることが可能です。
- -20~+100度
- 0~250度
- +150~+900度
測定温度範囲の幅が広いため、さまざまな対象物の測定ができます。
Wi-Fi対応や出力方法などの「機能」で選ぶ
性能面以外の機能も、サーモグラフィカメラ選びの重要なポイントです。
Wi-Fi対応の有無、使用環境、用途、データの活用方法などによって必要な機能は異なります。また、サイズや設置方法なども確認して選ぶとよいでしょう。
フリアーシステムズジャパン株式会社の「FLIR AX8」は、ストリーミングビデオ出力を搭載したサーモグラフィカメラです。「XMotion JPEG」「MPEG」「H.264」の3つの形式でストリーミングを行えます。ストリーミング解像度は640×480ピクセルで、刻々と変わる状況をリアルタイムで把握することが可能です。
おすすめのサーモグラフィカメラ
制御盤や配管の点検業務に用いる場合、持ち運びタイプのサーモグラフィカメラがおすすめです。熱電対やスポット式放射温度計で計測している温度計測を、温度分布で簡単に見ることができます。
人があまり立ち入らない倉庫や設備、高所箇所にある設備の継続的な火災予知や温度監視に最適な据え置き型サーモグラフィカメラです。温度レンジと解像度により最適なサーモグラフィをご提案します。
基板・シート材などの生産ラインにおける温度分布監視に用いるなら、据え置き型サーモグラフィがおすすめです。従来は熱電対や放射温度計を使用して検知していた金型やホットメルトの飛散検査/塗布切れを、温度分布でより詳細に確認でき、品質向上にもつながります。
サーモグラフィカメラの活用例
最後に、サーモグラフィカメラの具体的な活用シーンをいくつか紹介します。
制御盤などの継続監視
サーモグラフィカメラを導入すると、電気キャビネットや配線などの制御盤の温度を継続的に監視できます。
制御盤の温度変化をリアルタイムでモニタリングできるため、異常な熱を感知して問題を早期に発見し、修復することが可能です。
サーモグラフィカメラの活用による危機検知は、火災や故障などの深刻なリスクの軽減につながるでしょう。
例えば、フリアーシステムズジャパン株式会社の「FLIR AX8」は、54×25×95mmとコンパクトなボディなので、制御盤など限られたスペースにも設置可能です。設備や機器を稼働させたまま、継続的に状況のモニタリングやホットスポットが検知できます。計画外停電や操業の中断、故障などを回避できる上、手動での定期点検の手間も省けるでしょう。
製造装置の継続監視
サーモグラフィカメラは、製造業における装置の継続的な監視にも役立ちます。
例えば、ベルトコンベアなどの製造装置の動作中に生じる熱の変化をリアルタイムで捉えることが可能です。
そのため、製造装置の可動部分が異常な熱を帯びたときにも早期に察知できます。潜在的な故障や劣化を素早く特定し、製造工程に欠かせない装置の故障や生産停止などのリスクを減らすことにつながります。
オプテックス・エフエー株式会社の赤外線サーモグラフィ「Xi400シリーズ」は、フレームレートを80Hzと27Hzで切り替えられるため、ベルトコンベアのように動きのある測定物の温度測定も滑らかな映像で確認できます。解像度が382×288ピクセルと高いので、離れた場所に設置しても、正確な測定を行うことが可能です。
またフリアーシステムズジャパン株式会社の「FLIR C5」は、コンパクトでありながら、2時間の充電で4時間稼働させられます。リアルタイムでサーモグラフィカメラモードとMSX™モードの2つの画像を同時に取得できるため、対象物の状態をより正確に監視することが可能です。
倉庫や冷蔵倉庫の継続監視
サーモグラフィカメラは、倉庫や冷蔵倉庫内の管理においても有用です。
倉庫内の温度が異常に上昇したり低下したりした場合、サーモグラフィカメラはその温度変化をスピーディーに検知できます。
これにより、温度調整設備の劣化の予知や保全を行うことが可能です。また、製造品目の状態監視に活用することで、品質の保証や規格の遵守を確認できます。
例えば、フリアーシステムズジャパン株式会社の「FLIR AX8」は、倉庫内や冷蔵庫内の継続監視に適したサーモグラフィカメラです。超小型のサーモグラフィカメラですが、あらかじめ設定した温度閾値を超えるとアラームが自動で作動して知らせてくれるため、異常を迅速に発見できます。測定温度範囲は-10〜150度です。サーモグラフィカメラの中では低価格なので、コストを抑えてサーモグラフィカメラを導入したい方にも適しています。
製造設備の日常点検や定期点検
現場で扱いやすいコンパクトなサーモグラフィカメラは、日常点検に向いています。
例えば、ヒューズの異常温度や空気漏れ、配管設備などの隠れた問題を簡単に特定できます。また、顧客とすぐに画像を共有したい場合や、修理内容を記した報告書を作成する際にも役立つでしょう。
このように、サーモグラフィカメラで監視・点検することで、異常な熱を帯びた製品などの検知が可能です。万が一、閾値を超えた箇所を発見した際は、リプレイスやオーバーホールを実施することで、いち早く予防保全を行えます。
LiLz株式会社の「LC-T10」は、約3年充電することなく温度測定が行えるサーモグラフィカメラです。電源工事不要で、壁や天井にも設置できます。これまで作業員が現場に足を運ばなければ点検できなかった箇所にも簡単に設置できるため、リソースの削減につなげられるでしょう。またIoT・AIサービス「LiLz Gauge」に対応した製品なので、日常点検や定期点検のリモート化が行えます。LiLz Gaugeの活用により、画像内であれば数の制限なくアナログメーターを自動で読み取ることができるのも特徴です。
火災報知機や煙感知器が反応するような状況では、すでに火災が発生してしまっているという現実があります。そのため、火災関連のヒヤリハットを経験した企業さまが、「異常温度を検知して火が出る前に対応したい」というニーズから、サーモグラフィカメラを導入する事例が増えています。
また、サーモグラフィカメラは安全対策だけでなく、食品製造業の品質管理などのさまざまな業種・用途で役立つ製品です。温度を「見える化」することで得られるメリットは多岐にわたるので、製造業全体でサーモグラフィカメラの導入はますます進むでしょう。
まとめ:サーモグラフィカメラを活用して「隠れた危機」を事前に察知しよう
赤外線を検知して温度を可視化するサーモグラフィカメラは、潜在的な危機を事前に発見できる重要なツールです。制御盤や製造装置、倉庫管理や日常点検などあらゆる場面での活用が期待できるでしょう。また、導入により企業の生産性向上やコスト削減にもつながります。
製造現場のリスクを軽減し、より効率的な経営を実現するために、サーモグラフィカメラの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
カナデンでは、製造現場から経営システムまでの全階層の効率化につながるトータルソリューションを提供しています。
従来の温度検知方法は、対象物に直接触れて検知する「熱電対」や、非接触で赤いスポットの当たったポイントを検知する「スポット式非接触温度計」の使用が主流でした。
しかし、サーモグラフィカメラの場合は、対象物の温度を「点」ではなく「面」で確認したいというニーズに応えられます。利便性の高さから、サーモグラフィカメラを導入する企業さまが増えています。